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プロフェッショナルなんてくそくらえ。

NHKのプロジェクトXの後釜的番組に茂木ナントカさんがやっている「プロフェッショナル」という番組がある。なんかの名人とか、それこそ医者だったら神の手とかそういう感じの人が出てきて、最後にプロフェッショナルとは何ですかという質問に答える。24時間そのことを考えるのがプロとか、たいていそういう感じの答えが返ってくる。

先日、僕の送別会があった。僕の医局では毎年1回自主制作映画を作るのが恒例になっているんだけど、僕はその第1作と第2作で主人公の敵役という準主役を演じた。そして、その映画で僕の出ている名場面が編集されたダイジェスト版がそこで大型スクリーンに映し出された。

僕は6年前にこの若者ばかりの医局に指導者として期待されてやってきた。僕はただ自分を見せるだけで押し付けや具体的な指導はしない。彼らには充分カルチャーショックだったろう。それで充分だ。相手を全否定するのもイヤなので、こういうふうにやりたいという提案があったときは「いいんじゃない」が口癖である。もっともっと10年以上も前になるけど、前の大学でも新人たちがマックのアラート音を僕の「いいんじゃない」に設定して、あっちこっちで「いいんじゃない」「いいんじゃない」って鳴りまくっていたことがあったから、やっぱりこれは僕の代表的なセリフなんだと思う。

映画では、たいてい僕は敵役というか悪者というか真犯人だったりするんだけど、その動機となった理由や怒りなどについては台本に書いていないんですよ。他のセリフはびっしり台本に書いてあるんだけど、その僕の独白の場面だけは台本が真っ白なんです。そして監督が、そこはアドリブでお願いしますって言うんだ。それが恒例だったんです。

2作目では、主任教授の座を争うバトルロイヤル戦で、僕と後輩の女医が最終決戦を行うんだけど、僕が彼女に負けそうになる。そこで僕は降参するふりをして土下座をする。土下座をしながら僕の独白シーンとなるんだ。

「お前ら、仕事に命をかけたことがあるか。寝ないで論文読んだり書いたりしたことあるか。ただ時間に流されるようにだらだらと目の前の麻酔をかけてるだけじゃねーか。仕事っていうのはな、プロっていうのは仕事に命をかけることなんだよ。」

正確には覚えていないけど、こんな感じ。今思うと背筋が寒くなるね。そしてこういいながら彼女に襲い掛かる。

「プロなら最後まで油断やスキを見せるなー!」

ま、結局やられちまうんだけどね。

後輩たちにとって、普段は「いいんじゃない」とばかり言っている僕の本心、僕の厳しさを映画のセリフで知ってかなりショックを受けるというのも、それもまた恒例だったようだ。

当時は僕は本当にそう思ってたから言ったんだけど、そう言ってるやつが映画では結局必ず負ける。そして現実でも、つまり僕の中でも、実はそんなこと言ってた奴はとっくに負けていなくなっているんだ。

世の中、プロフェッショナルに出演して茂木ナントカにプロフェッショナルとは?なんて聞かれるのは社会の極一部の人なんだよ。世の中にはいろいろな人がいる。じゃあ24時間仕事のことを考えられない人はプロとはいえない、だから仕事をする資格ないのか、いや、そんなことはないよね。5時で帰る人だって、パートの人だって、みんな戦力には変わりないんだ。仕事じゃなくて家庭に帰ってから本領を発揮する人だって、家族にしてみりゃとても大事な人だ。世の中働かない人も病気やいろいろな事情で働けない人もいる。そんな人たちも、全部全部含めて社会なんだ。世界なんだ。みんながみんなNHKのいうプロフェッショナルである必要なんてどこにもないんだよ。むしろ組織の、社会の、世界の構成員の最多数派は、「その他大勢」の人なんだ。「その他大勢」っていうのは大切なことなんだよ。なんといっても、組織を社会を世界を成立させるために最も重要なのは一部のプロフェッショナルなんかじゃなくて「その他大勢」に他ならないからね。

だから僕は今後は幸せなその他大勢とは何かを少し模索してみることにするよ。