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彼の神様からの祝福

先月のことだった。引越しのため2年近くお世話になったその精神科医と会うのもこれが最後となった。ビル開業している小さなクリニックで、カウンセリングといってもお互いの仕事内容とかそういう世間話を5分ぐらいして、あとはごく少量の薬を処方してくれて終わりだ。でもこれが最後かと思うと、藁にもすがる思いで初めて受診したときを思い出し、胸につまるものが湧いてきて何か喋ると涙がこぼれそうだったので、もっと感謝の気持ちを表したかったのだけど、はいはいと返事しかできなかった。彼の世間話は立派な精神療法だったってことが今分かった。僕は涙を隠すようにして部屋を出た。
そして一ヶ月が経った。あれほど彼から「引越しで悪くなる人が多い」とか「1、2年後にまた再発するかも」と釘を刺され続けてきたのに、僕はやっぱり全くその通りのことをしでかしてしまった。彼の世間話が立派な精神療法だったってことが、皮肉な形で証明されったってわけだ。
僕はこの3日間、自分の不甲斐なさが悲しくて泣き続けた。2年近く頑張ってきたことを台無しにしてしまった。全く彼に合わせる顔がないよ。でも3日目にして自分の言葉を思い出した。ただ生きているということが幸せなのだ、最近はそれがここでの僕の主張だったじゃないか。
僕はキリスト教信者じゃないけれど、彼は熱心な信者だった。だが、もちろん診療という立場上、宗教の話を僕にすることは一切なかった。それなのに、不思議なことに、今の僕は、こういう運命も神様の祝福のひとつと思えば苦でもない、むしろ喜ぼうと思うことができる。僕は今、孤独の絶頂にいる。彼にメールを書きかけた。でもやめた。メールなんか書かなくても、神様のことを考えれば、今、僕は彼とつながっているような気がしたからだ。